2014年お世話になったアルバム(1位〜10位)
前回に引き続き、今年のアルバムを振り返りたいと思います。今年よく聞いた、たいへんお世話になったアルバム、10枚です。今回は1位から10位です。
10. Bishop Allen「Lights Out」
ブルックリン出身のインディポップバンド、5年ぶりの4作目。My Space全盛の頃は、ものすごい量の曲をアップしていました。今やすっかり活動は落ち着いてしまいましたけど、やってることは何もブレないところは、中途半端に時代を意識して失敗してるよりずっといいと思います。ナチュラルで、そこそこにポップ。派手ではないけど、明るいメロディの温度感がとても気に入っています。見かけはもっさりしてるけど、ソーキュート。ナードの星です。ジャケットも良い。
9. くるり「THE PIER」
もう何でもかんでも聞きまくるということは辞めてしまったので、音楽的な趣味が狭くなりましたが、こういう一枚のアルバムで様々な音楽の冒険をしてくれると、刺激を受けるのでありがたいです。曲のテーマを思いもよらぬところに着地させる展開もサマになっていて、なみなみならぬセンスがあるのだなと改めて思います。あらゆることにトライはするけど、過去の冒険もきちんと血肉化されてるのも感じられるし、自身の音楽をどこまで更新してしまうのかこれからも楽しみであります。あと録音が抜群にいいですね。すごくクオリティの高いサウンド。
8. Real Estate「Atlas」
ニュージャージー出身のバンドのサードアルバム。前作も良かったけど、キラキラしたギターアンサンブルと、ヴォーカルハーモニーが絶品。BIG STARから続く伝統を継承するような胸をすくメロディも素晴らしいです。ギターポップバンドの良心を一手に引き受けてしまったような評価も納得の傑作だと思います。
7. Avi Buffalo「At Best Cuckold」
カルフォルニア出身のバンド、4年ぶりのセカンドアルバム。1st当時彼らはまだ10代後半で、高校を卒業してから本格的に楽器演奏に本腰を入れたようで、演奏はぐっとよくなっていますね。何よりアヴィグダー・ザーナー・アイゼンバーグ君の紡ぎだす小さなサイケポップが素晴らしく、すっかり信頼できるソングライターになっている。3年かけてレコーディング&オーヴァーダヴィングを繰り返したという肝の据わりようで、アレンジの無駄のなさ、サックス、クラリネット、ホルンの音色の選び方も心地よいところに着地していると思います。
6. Especia「Gusto」
デビューした当初は80年代のアーバンミュージックを今に体現するニッチなグループかと思っていたけど、一気に音楽的な深みを探究するモードにシフトしたアルバムは予想以上に素晴らしい出来で驚きました。80年代は重要なキーワードかも知れないけれど、もはや80年代かどうかはどうでもよい。モダンで艶やかなダンスミュージックであり、最高の週末のためのパーティサウンドであり、日常のステップを軽くさせるためのサウンドトラックであると思う。そして脇田もなりという他のアイドルグループではみかけないタイプの、がらっぱち感もありつつ、キュートなヴォーカルの存在感を示したアルバムでもあります。アルバムトータルとしての流れも澱みがなく、いつも通して聞きますね。
5. Simian Ghost「The Veil」
スウェーデンの3人組ドリームポップバンドのアルバム。ネオアコ、60sポップ、シューゲイズ、ディスコポップなどバラエティに富んだ曲調を、美しい男女コーラスと秀逸なメロディで彩った、ポップ博覧会のようなアルバム。日本の小さな界隈で渋谷系の復興云々と語っているところに、このアルバムをさっと差し出す方が話がまとまるような妄想にかられたりします。
「Never Really Knew」のMVは、ワイドレンズで撮られた大自然や、街の中をステップする男女の画が決まっていて、ハッとする美しさがあります。
4. 花澤香菜「25」
去年の1stアルバムは一位にしました。よりバラエティに富んだ、2枚組24曲というボリューム。決め曲に若干乏しいものの、クオリティはおとさず、とんでもない仕事をしてるのがよく分かります。前作はプロデュースされるラインにのってる感があった嬢の歌(それが最高だった)も、歌い手としての自我にも目覚めはじめたのか、もともと声優さんだからか、曲や歌詞に沿うような丁寧な歌い方になったところにも成長を感じられます。余談ですが、このアルバムがリリースされた春頃は、卒業するメンバーを出すエビ中ブルーの時期にあったため、「同心円上のディスタンス」「flattery?」が、ぁぃぁぃがソロで歌う列車ソングがこんな曲だったらいいなとか(冬に発表されたヒャダイン作のぁぃぁぃソロ曲を聞いた時のわたしの落胆ぶりったらなかった)、「Waltz for Praha」の「またいつかこの街を訪れる時には 少しだけ大人の私に会えるかな」のラインが、卒業メンバーの歌がこんなだったらいいなという妄想をしながら聞いていました。すみませんでした。そういうストーリーを想像させる余地があるところも、いい曲のいいところだと思います。なんて。
3. 吉澤嘉代子「変身少女」
最初に「美少女」MVを見たときは、レトロ趣味で演劇部出身のちょっとおもしろい女子、みたいな感想だったんですけど、収録されている「ラブラブ」〜「ひゅるリメンバー」までの流れを聞いてぶっとびました。レトロではあるけれど、恋する女の子の機微を丁寧に掬いあげるような歌詞、そのムードを的確に着地させる楽曲構成力とその幅。どでかい胃袋を持って、明らかに表現に長けた、キャロル・キング、ユーミン、椎名林檎、aiko、小島麻由美などに並ぶようなアーティスト。うそ。しらん。でも好き。しゃいこー。来春に出る1stフルアルバムが楽しみすぎます。
2. Dorothy Little Happy 「Starting Over」
アイドル楽曲大賞アルバム賞受賞作。洒落て粋なセンスや、飛び道具なく、愚直なほど王道なメロディとアレンジを練り上げ練り上げして出来た、ど真ん中ストレートの力強さだけで三球三振を積み上げて20勝してしまったようなアルバム。年間MVPは当然だと思います。アイドル界隈は、かわいさだけに頼らず、音楽的な成果を上げようとしているグループも増えてきているように思いますが、このアルバムはひとつの指標になったのではないでしょうか。
1. Ben Watt「Hendra」
名盤「North Marine Drive」から31年後に発表されたセカンドソロアルバム。ここには「North Marine Drive」にあったような、北風でかじかんだ手でつま弾かれたようなナイーブなギターのコードストロークも、閉じた「個」を感じさせる透徹な声とも感触の違う、部屋を出て様々なものを見てきた中年の、渋く地味だが風通しのよいフォークロックが鳴っている。曲にAORのような艶を与えるバーナード・バトラーのギターや、心地よい風を送るデイヴ・ギルモアのスライドの貢献も大きい。メランコリックに足を絡めとられようとも、顔を上げて歌を紡ぐこと。その意思だけで感動的。音楽的な潮流とは関係なくとも、錆び付かない新しいスタンダードだと思います。
ベストアルバム選出は、こういう音楽もありますよーという自意識の表出の面もありますけど、インターネットの片隅で同じ音楽を聞いてますよ、というあなたとの小さな出会いのためでもあります。ハローハローハロー。
今日は大晦日。よいお年を。